Canvas2 〜虹色のスケッチ〜

 いつの作品だよって感じですが、ようやく見終わりました。各話ごとの感想は今更という感じがするので割愛。ちなみに以下の部分はすんごいネタバレです。



 全体を通しての感想だけど、シナリオがマルチエンディング型ゲームのアニメ化に際してありがちな「ヒロイン全員のシナリオをちょこっとかじって終了」というパターンに陥っていなかったのは評価できるとは思う。2クール作品で放送時間が十分にあったというのがそれを可能にしているのだろうけど。とはいえ、漫然と進めていたのではどのヒロインも中途半端という前述のパターンと同じ轍を踏んでしまうわけで、メインのヒロインを「エリス」と「霧」の二人に絞って、他のヒロインはあくまで教師見習いの主人公にとっての教え子的なポジションにとどめ、その関係においてエピソードを織り込んでいくという構成の仕方はよかったと思う。また、各ヒロイン同士の仲が良くいろんな場面で絡んでくれるので、「ヒロインの横のつながり」が結構好きな僕としてはうれしい限りでした。


 と、ここまでは褒められるのだけど、前半の各ヒロインのエピソード終了後の「エリス」、「霧」、「浩樹」の三角関係の描き方はどうにもよくない。時間は十分にあったにもかかわらず、霧と浩樹が恋人になる過程を時間をかけて書きすぎた為に後半の時間が足りず、最終話における主人公の選択が社会人としても人としても男としてもどうにも賞賛されないようなものになってしまっている。彼の行為を「良くないもの」と断ずるならば、それに導いたヒロインのエリスや彼女の友人たちの行為も「良くないもの」に見えてきてしまい、結果、この作品自体の雰囲気が損なわれてしまうということになる。そういった意味では非常によろしくない。


 これは明らかにシナリオのミスで、浩樹が霧からエリスに心変わりするなら、「妹(のような存在)としてしか見れないといっていた浩樹が、何故、またどの段階で女性として意識するようになったか、恋心を抱くようになったか」を書かなければならないし、そこがこの手の物語で一番重要な部分だろう。それを省いてしまったが故に、主人公は「高校時代からずっと自分のことを想ってくれていて、彼とともにクリスマスを過ごすためプレゼントを買い、美容院で髪型をセットし、彼のために捧げようと*1ホテルの部屋まで取っていた恋人を無視し、唐突に本当に唐突に従姉妹の方に乗り換え」という所行を行ってしまった。言わせてもらうならばサイテーである*2
 また、最終話だけ何故かエリスのエロスな*3シーンが二度も出てくるのだが、これもそれまでの作品の雰囲気からしたら浮いている感があり、どうしようもない。特に二度目、エンディング後のキスシーンはとってつけた感があまりにもしてがっかりしてしまう。


 と、こんな風に書くと駄目駄目だったのかと思われるかもしれないけれど、そんなことはなく、萌えキャラとしての人物の造形は非常に良くできている。竹内部長に菫さん、理事長代理に萩原先輩とこのあたりは非常に魅力的にかかれているし、彼女たちと絡んだときの主人公はけして悪くないのだ。ヒロイン二人も可愛らしいし、キャラクターだけならなかなか良い作品といえる。そして、何より、である。何より藤浪さんが可愛らしい。全く、最近の私はツンデレキャラに弱いらしい。
 この藤浪さん、ヒロイン・エリスの親友として各所で活躍してくれる。この作品における最大の良心といってもいい人物である。いい性格をしてはいるのだが。


 そんな彼女は最終話においてなんと殺されかける。いや、殺害されるわけではなく持病の心臓病の悪化という形でシナリオに屠られかけるのだ。


 エンディング前の彼女のラストシーンは、飛行機の中。悪化した心臓の病を治すためアメリカに手術に向かっているのだ。彼女は外を見下ろしながら左手にはめた手袋を撫でる。それは彼女が親友のエリスと片方ずつを分け合ったもの、「来年のクリスマスはプレゼントを渡すから。これはその引換券」と。友は言った「さよならは言わない」と「またね」と。だが、彼女は知っている。自らの病を、それが如何に自分の体を蝕んでいるかを。だから、彼女は呟く。「さようなら」と「さようなら、エリスちゃん」、「さようなら、病院のお兄ちゃん」と。そして、彼女の身体からは力が抜ける。手袋を撫でていた手も今はもう動かない……と、ここまで見たらどう見ても死んでいる。まず間違いなく死んでいる。が、何故かエンディングにおいて生き返っているのである。
 何この、趣味の悪いドッキリ? と言いたいところなのだが、ここに私は一つの萌えと演出上の意図を見いだした。きっかけは彼女の「さようなら、病院のお兄ちゃん」という一言である。このお兄ちゃんとは誰だろう? レビューサイトでは「お兄ちゃん=病院の先生」という解釈をされているところもあった。しかし、メインキャラがエンディング前、最後の台詞という重要な部分で、登場したかどうかも定かでない病院の先生を持ち出すのはシナリオ的に不自然だ。そうするくらいならエリスだけにしておいた方が物語としては締まるだろう。単純にシナリオ術として考えても「最後にお別れを言う人物」は、やはりその人物の中で、物語の中で非常に重要な人物であるに違いない。
 では、この「病院のお兄ちゃん」とは誰なのか。ここで私は妄想してみたいと思う。

  1. 22話で軽い事故を起こしたエリスが、運ばれた病院は「柳田総合病院」だった。
  2. 心臓を患った藤浪が最終的に落ち着いた先も「柳田総合病院」だった(23話)。
  3. 幼い頃エリスは家族とともに交通事故に遭い、それで両親は死亡。彼女はショックを受け病院に長期入院することになる。(2話)
  4. その事故の現場は現在の彼女と浩樹の暮らす街付近だったと考えられる。(理由は後述)
  5. 1,4より、幼い頃起きた事故でエリスが運ばれた先も「柳田総合病院」だった可能性がある(高い)*4

 そして、最後の一点。「傷ついたエリスを慰めるため、従兄弟の「お兄ちゃん」がよく病院にお見舞いに来ていた*5」と、ここまで述べれば「病院のお兄ちゃん」の正体は明らかになったも同然だ。彼女の親友エリスが心より慕う人物、「浩樹」こそが藤浪のいう「病院のお兄ちゃん」だったのだ!!*6


 そういう解釈で物語をとらえ直すと、あら不思議、主役の二人なんか目じゃないくらいの萌えオーラが藤浪から立ち上ってくるのである*7。幼い頃、藤浪と浩樹は何らかの交流をした。そして、そのことは藤浪の中でとても大切な思い出になっている*8。そして数年後、彼女は浩樹と再会する。最初は気づかなかったかもしれないが、エリスが入院したことを友人として聞いていればそのうち、気づくはずである。主人公が思い出の中の大切な人だと。
 しかし、である。彼女はそんなことはおくびにも出さず親友の恋の応援を続ける。そして、最後の最後、知る人の周りにいない飛行機の中、それこそ*9最期の瞬間に一言だけ想いを告げるのだ。「さようなら」と。そう、一番最後に「さようなら」を言うこと、そのことこそが彼女の大切な人への想いの寄せ方なのだよ、ワトスンくん! 典型的なツンデレキャラでありながら、思慮深く、慎み深く、そして秘め事を天国まで持って行こうとするその心の強さ、友人を想う気持ち! 彼女が校庭の木の下、主人公と絵を描いたときにどんなことを思ったのか*10、その後の「やっぱり構ってくれていいよ」の一言にどれだけの想いが込められているか。あぁ、行間を読むとはまさにこのことである。この余韻の残し方、儚げな想いの発露を「われが、われが」のメインヒロイン二人に見せたやりたいくらいである。つーことで、藤浪さんはCanvas2最高のヒロインにして、最強の萌えキャラなのです。まる。


 ……なんかものすごく長くなってしまったなぁ。ここまで読んでくださった方がいたら、本当にありがとうございます。次からはなるだけ短く書くように気をつけます。


 追記:これだけ推論、推論で進めていたのだけど、どうやら実際に作中でちょろっと描かれてた模様。つーか、2話って僕見てんじゃん(汗。

*1:何をとは訊かないように

*2:ここで「またこれまで通りの幼なじみにならなきゃね(大意)」といえる霧さんは凄く人間的に出来てる人だと思います。“Scho○l Days”だったら、間違いなくエリスか浩樹が殺されてますな。

*3:このダジャレが言いたかったのではないよ。全く全然、かけらほども

*4:両親が死亡したことから、エリスが幼い頃あった事故が凄惨であることがわかる。と、同時に(難病を抱える)藤浪が通院していたことから柳田総合病院はかなり設備が整った病院であることがわかる。であれば、幼い頃の事故の搬送先として(22話でそうであったように)柳田総合病院が選ばれる可能性はけして低くないと考えられる。まぁ、街の規模によるけど

*5:このことが4を支える根拠となる。小学生くらいの浩樹が頻繁に来れるということは病院は彼の生活圏の近くにあったと考えるのが妥当で、仮に別の場所で事故にあったにしろ、入院させるなら世話ができる人物、すなわち彼の両親がすんでいる場所にするのが自然だからだ

*6:実は全話見ているわけではないので、これがふつうに作中で語られていたら恥ずかしいことこの上ないエントリであるな、これは

*7:これこそが演出上の意図だろう。すなわち、ラスボスならぬ真のヒロインは藤浪朋子だという制作側の想いが込められているのだ!!

*8:でなければ、最後に「さようなら、病院のお兄ちゃん」は来ない

*9:彼女にとっての

*10:おそらく、このときに「病院のお兄ちゃん」=浩樹だと気づいたものと思われる