水田美意子 『殺人ピエロの孤島同窓会』

 

殺人ピエロの孤島同窓会

殺人ピエロの孤島同窓会

あらすじ

 本土から1500km離れたところにある絶海の孤島、東硫黄島。島内唯一の高校である東硫黄高校の卒業生三十五名は同窓会のため、四年ぶりに島を訪れた。公民館で行われる同窓会がどこか盛り上がらないまま進んでいく。そのとき、持ち込まれた液晶テレビに映ったのは磔にされた幹事の金子と彼の前でナイフをもてあそぶ「殺人ピエロ」だった。彼の死を皮切りに次々と巻き起こる殺戮の嵐。「殺人ピエロ」はいじめられっ子にして同窓会、唯一の欠席者・野比太一なのだろうか。本土との連絡手段が断たれた島内で「殺人ピエロ」と同窓生達との戦いの火ぶたが切って落とされた

感想

 帯に「12歳が描いた連続殺人ミステリー」とあり、売りは年齢だけかなと思っていた。一読しての感想は、この本は出版すべきではなかったんじゃないかなというものだった。少なくともこの段階では出すべきではなかったというか、もっと手直しして出せば良かったのにとそんな風に感じた。


 連続殺人ものということで、とにかく人が死にまくる本作であるが、その勢いはかの問題作『バトル・ロワイヤル』に勝るとも劣らぬもので、極端な話、序盤は四ページに一回くらいは人が死んでたような気がする。そのように殺害ペースが速いため、誰がどうなったのかが非常に分かりにくい。三十五人+α*1と膨大な数の登場人物を出しているので、人間関係が複雑すぎるきらいがあるため、その辺りは主人公の回想ででも良いから整理して欲しかった。


 「殺人ピエロ」の殺害方法が多彩かつ奇抜で、この辺りはなかなか楽しめた。特に遊園地での一幕などは映像化すると「殺人ピエロ」の風貌もあって、サスペンス感が高まる良い映像になるかもしれないと思った。時に「ありえねぇよ」という方法も飛び出すが、そういう着想こそは面白いなと思うし、PTAの方々は顔をしかめられると思うが、十二歳の子どもがこれだけ考えられるというのには正直感心した。もちろん、既存作品からのインスパイアもあるのだろうけど、それをそれとして自分のものに出来ているのは良いんじゃないかなと。


 問題は、一つは推理部分。前半飛ばしすぎたり、とにかく大量に被害者が出るため、そもそも推理しようという気力が起きない。これは個々の事件の描写が簡素すぎるというのも関係していると思うが、時系列すら時に混乱しているし、「なんかもうどうでもいいや」と言いたくなるような殺され方をしてるのもいるため、どうにも本格としてみることが出来なかった。ただ、トリック自体は割としっかりしているというか、考えられているものだし、伏線をいれようと努力している形跡も見られるし、十二歳としては及第点と言うべきか。


 もう一つの問題点にして、これが最大の問題点だと思うが、つっこみどころが多すぎる。物語のために無理矢理、登場人物にとんでもない行動を取らせてる部分もあり、その部分では興ざめしてしまった。あと、「胸の大きい女は頭が空っぽ」って君だってそのうち、大きk(以下自主規制)


 全体を通しての感想だが、十二歳として見たら及第点といえると思う。だが、普通のミステリとしてみるならば残念ながら本にするレベルにはない。巻末に選評が載っているが、大森望氏以外の評者はみな、この作品の出版には後ろ向きだった。それらを説得するために大森氏は「十二歳という年齢もこの作者の武器であり、出版不況の今日、使える武器は何でも使うべきだ」といった意味のことを仰っている。そのこと自体は否定しないし、出版社としての観点からしたらそれは正論なのかもしれない。

 だが、一方で作者は十二歳の子どもである。パターナリズムに陥ってしまう危険もあるが、そのことを考えた上で冷静に出版するかどうか、出版するならどういった直しをするか考えて欲しかった。この本自体、僕はあまり評価していないし、そのことは作者に対する評価にもつながる。彼女が二作目・三作目を出版する機会があったとして、そのときにこの作品が枷になって、それが手にとってもらえないという事態が起こってしまうならば、それは非常に不幸なことである。
 本を出版するというのは十二歳の小説を書くのが好きな子達にとってはそれこそ夢のようなことで、その夢が叶った彼女はもしかしたらとても幸せかもしれない。この作品が出版されたことが果たして彼女にとって良いことだったかそうでなかったかは、究極的には彼女自身にしか分からないことではあるが、作者として「水田美意子」としてはあまり良いことではなかったと、そう感じてしまう。


 小森健太朗氏は『ローウェル城の密室』において、十六歳で江戸川乱歩賞最終候補に残っている。そのときは出版されなかったものの、後々実力をつけ作家としてデビューを果たし、現在も多方面で活躍している。水田美意子氏にも彼の後に続き、本格ミステリの傑作を残してもらえたらと思う。彼女はまだ十五歳。これからの成長を期待したい。


 とか、書いた後でこんなことを書くのは憚られますが……実は作中には濡れ場が三カ所、うち一回はうら若き乙女が心に灯った熱をもてあまし自ら……といったもので、それをどんな風に考えながら書いてたのかな〜とか想像してみるのもありかもです。えぇ、もちろん、鬼畜・外道・変態・ペドその他諸々の罵詈雑言を背中にしょっての茨の道となるわけですが。

*1:警察官から都職員、自衛官まで出てくる