大倉崇裕 『福家警部補の挨拶』
- 作者: 大倉崇裕
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/06/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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感想
まず、目についたのは文章が下手だなということだった。「」の会話を8つぐらい並べている部分はスピード感を出すためなのかもしれないが、成功しているとは言い難い。また、コロンボ、古畑の系譜……みたいなことが帯に書いてあったのだが、正直、その二つと並べるとキャラクターとしての魅力は雲泥の差といえる。というのも、福家警部補自身に関する描写が非常に少ないのだ。この作品、基本的には犯人による一人称で構成されているのだが、福家警部補は例えば古畑のように犯人にやたらつきまとうタイプではないので、出て来てもいくつか質問をして帰って行くくらいだ。その為、キャラクターとしての魅力が伝えにくいのだと思う。そもそも、犯人側に視点を置けば対峙する警察関係者を好意的に描けるわけがないので、これは構成上の問題ということになるのかもしれない。
もちろん、この構成は悪い方ばかりに作用はしてない。「いったいどこから気づいたんだろう」という犯人側の焦りやそれを隠そうとする心情を読者と共用させようとするなら、ベストの方法といえるかもしれない。ただ、先に挙げた二大類型は倒叙型でありながら、探偵役のキャラクターが非常に立っているわけで、そういった部分は何とか技術的に両立できたんじゃないかと思う。そういった意味では少し残念だ。
事件自体はなかなか。どの事件も丁寧に描いてあり、最後に福家が提示する証拠でストンと落ちるように出来ている。白眉は『オッカムの剃刀』だろう。特にラストでの犯人と福家の会話には思わずうまいなぁと呟いてしまった。
ただ、先に描いたように探偵役のキャラクターがどこか希薄なため、作品全体がいささか地味になってしまっている。もちろん、それはそれで悪くないのだが、「コロンボ」、「古畑」の系譜というからにはそれにふさわしい魅力的な名探偵を創造してほしいと思ったのもまた事実だ。