本多孝好 『真夜中の五分前 side-A』、『真夜中の五分前 side-B』

真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-A

真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-A

真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-B

真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-B

あらすじ

 side-Aは大学時代に恋人を失った主人公の日常とある女性との出会いを描く。side-Bではside-Aの二年後の主人公の姿が描かれる。

感想

 以前、『Finedays』の書評でも描いたが、本多孝好の作品はどことなく水彩画を思わせる。それはこの作品でも同様で、読者の心というキャンバスに柔らかなタッチ、淡い色でそれでも気がつけばどこか透明感を感じる人物、物語を描いている。一読して感じるのは作者の美意識が投影された登場人物に溢れる魅力だ。典型的な「仕事の出来る女性」として描かれながらも、意外な一面を持った小金井女史、IT企業の社長として辣腕をふるいながらも、時にウィットの効いた会話でにやりとさせてくれる野毛氏、そして飄々としながら読者に一番身近な存在であるにもかかわらず、最後まで本心を覗かせてくれない*1一人称主人公と非常に魅力的な人物が並ぶ。

 物語自体は自分が大昔に似たようなテーマの作品を描いたのもあって、なかなか冷静には読めなかった。というか、本多氏とのセンスのさ、ストーリィテリングの差を見せつけられるばかり。「五分間」の使い方は*2見事だったと思う。最も印象に残ったのはハードカバー版のBのP147からのシーン。あまり書くとネタバレになるので書けないのだけど、個人的にはかなりお薦めしたい一冊です。さらっとした読みやすい恋愛小説を読みたい方にはお勧め。ただし、口当たりの良さとは反対に、後味は甘いばかりではないので、その点はご注意を。

*1:もちろん、この場合、「覗かせてくれない」のではなく、彼自身が「覗こうとしていない(あるいは覗くことを避けている)」のだが

*2:特にBにおいて