辻村深月 『凍りのくじら』

凍りのくじら (講談社ノベルス)

凍りのくじら (講談社ノベルス)

あらすじ

藤子・F・不二雄をこよなく愛する、有名カメラマンの父・芦沢光が失踪してから五年。残された病気の母と二人、毀れそうな家族をたったひとりで支えてきた高校生・理帆子の前に、思い掛けず現れた一人の青年・別所あきら。彼の優しさが孤独だった理帆子の心を少しずつ癒していくが、昔の恋人の存在によって事態は思わぬ方向へ進んでしまう…。家族と大切な人との繋がりを鋭い感性で描く“少し不思議”な物語。(ノベルス背表紙より)

感想

 前半はとにかく主人公の性格が鼻について仕方なかった。身の回りの人の性格・境遇を「S(すこし)F(ふ〜)*1」でしつこいまでに表現してるところなんかは、何様のつもりなのかしらとか思ってしまった*2。また、おそらくは主題として描かれた主人公と周りの人々*3との繋がり方も、最初のうちはどうにも気持ち悪く感じてしまった。その為、どうにも読んでいて楽しめない部分もあったのだけど、多恵嬢登場から物語は一変。なんだ、辻村さん好ましい人物、繋がり方も書けるじゃん*4
 その後の展開、少年との交流、そして主人公の変容と怒濤のクライマックスとこの辺りは非常に楽しめた。肝心の仕掛けに関してはこの作者の処女作でも感じたルールが不明確故のアンフェアさを感じたりもしたけど、”そういう”ミステリじゃないからこれはこれでありだろう。


 ラストで提示される彼の「S」の解釈は思わずにやりとしてしまった。あぁ、この男の子好きだわ。そんな彼を喩えた最後の「S・F」は「少しFlying」だと思います。

*1:例えば主人公は「少し不在」、主人公の元彼は「少し腐敗」、自分の母親は「少し不幸」

*2:いわゆる『他人を見下す若者』かな

*3:特にある人物

*4:どこか作者が透けて見える一人称主人公が取っつきにくいのはいつものことだけど