平山瑞穂 『忘れないと誓ったぼくがいた』

忘れないと誓ったぼくがいた

忘れないと誓ったぼくがいた

あらすじ


 高校三年生の「ぼく」は眼鏡を作るべく訪れた<オプトショップ・ハヤセ>で織部という女性店員に出会う。彼女と共にフレームを選び眼鏡を作成した彼は、一週間後、その眼鏡を受け取るべく再びその店を訪れたが、織部という店員はおらず、また奇妙なことに他の店員達も彼女のことを全く覚えていないのだ。それから数週間が過ぎた後、彼は学校の屋上から一人の少女を見かけた。彼女こそが<織部>と名乗った店員だった……。

感想

 一読しての感想はKey風味の物語をマイルドに仕上げたなというものだった。扱っている題材自体は非常にKey的である。言ってしまえばくらにゃどふーこシナリオのギミックをよりストレートに扱いながら、それでいて読み口、読了感はマイルド。そんな感じの作品である。涙腺が壊れてるんじゃないかと噂される私だけど、この作品においては胸にぐっと来ることはあっても、それが涙という形を取ることはなかった。*1


 何でだろうなと思った時に、ふと思い出したのが秋山さんの書評の中の「主人公=作者」という言葉で、これを言い換えると「読者=記述者」ということになる。この物語は自らの日記*2を元に「ぼく」が再構成したものだ。それ故、そこにはある種の客観性が存在する。それが前述のマイルドさに繋がっているのではないかと思った。そのことを悪いとは思わない。むしろ、下手に泣きに走ろうとしない抑えた筆致で丁寧に紡がれた優れた物語だと思う。


 青春小説に分類される小説であろうから、若い人に特に高校生辺りに読んでもらいたい作品だが、それ以外の年層の人でも十分堪能できる一冊だと思う。

*1:下に上げる理由の他に物語の持って行き方や描写の量も関係があるだろうし、おそらくはBGMの有無なども影響を与えているのだろうと思う

*2:のようなもの