Key 『智代アフター』

智代アフター ~It's a Wonderful Life~  初回特典版

智代アフター ~It's a Wonderful Life~ 初回特典版

 『planetarian』がそろそろ届くから積んどくのもなぁ、と思い一気にプレイ。で、感想な訳ですが、正直、これはあまり評価できないなぁ……。


 何が拙いかというと、圧倒的にテキストの量が足りないのだと思う。これまでのKey作品というのはファンタジー(おとぎ話)っぽい設定を使って、物語全体(10)の内、7か8を描いて、残りの2,3はユーザ側で想像、補完してねといった手法がとられていたと思う。それはそれで賛否両論あると思うが、少なくとも作風にあった手法ではあったと思う。


 ところが、今作はこれまでより明らかに現実よりに物語の舵を取りながら、描写に関してはさほど増えていないため、どうしても物語世界全体の「箱庭っぽさ」が際だってしまっている。更に言えば、個々の登場人物の心理描写も不十分なため*1、後半の主人公の行動が独りよがりにしか見えなかったのも痛い。


 もう一つどうかと思ったのは個々の物語のつながりで、登場人物それぞれについてのイベントが、取って付けたように起こるのはどうかと思った。こういった部分は企画の段階で修正されると思うのだが、これまた取ってつけたように出されるアフターシナリオといい、この作品においては企画が完璧に破綻しているのではないだろうか。
 イベントだけをとりあえずくっつけたシナリオともいえないシナリオ、そんな風に僕は感じてしまった。


 とはいえ、光る部分も無くはない、可南子は可愛いし、可南子は可愛い。そして、可南子は可愛い。このように良い部分もあるが、全体としてはどうかなぁ、と。涼元さんが抜けたのはやっぱり痛かったんだな、と思ってしまう。


 余談になるが、涼元悠一というライターは「芸術家肌」と評されることもあるが、僕個人は「職人肌」だと思っている。文章のセンスなどが飛び抜けて素晴らしい訳ではないが、シナリオ全体でのつじつま合わせだとか、細かい部分での伏線の処理などはずば抜けて上手いと感じるからだ。
 そういった意味では大まかな企画をたてる麻枝さんとそういった部分での処理を得意とする涼元さんの組み合わせはちょうど良いと思っていたけれど、まぁ、過ぎたことを悔やんでも仕方ない。


 心に残る物語ではある。しかし、出来はあまり良くない。ダイヤの原石……ともいえない。磨けば光るかもしれないし、そうでないかもしれない。屑石である可能性も多分にある。しかし、コンシューマ移植時にはシナリオが大幅に加筆されるらしい、そこでどれだけ物語としての形がとれているか、そこに注目したいと思う。

*1:というよりも、心理描写が下手と言うべきか