ロバート・F・ケネディ 『13日間』

 

13日間―キューバ危機回顧録 (中公文庫BIBLIO20世紀)

13日間―キューバ危機回顧録 (中公文庫BIBLIO20世紀)


 キューバ危機について、当時の米国司法長官で大統領の実弟でもあったロバート・F・ケネディが書いた回想録。


 戦争ゲームの将棋において、最も難しいことの一つにいかに相手に手を渡すかということがある。自分から攻めるのとは違い、相手のリアクション(攻撃)を想定してのことなので、相手に対するより深い分析が必要になるし、なるべく難しい条件をつけなくてはならない、ということもある。


 キューバ危機のときにアメリカが行った「海上封鎖」という手段も同様にソ連に「手を渡す」ことだった。しかし、将棋とこのキューバ危機は大きく違った。 戦いは起こってはならないし、「手」の意味を相手が正確に理解してくれるかも分からなかった。局面は何十倍、何百倍、あるいは何万倍も複雑だったのだ。
 そして、何よりの大きな違いは、その「局面」には世界中の人々の、あるいはこれから生まれてくる未来の子供達の命をもかかっていたことだ。相手を「詰ます」ことは即ち、自分も「詰む」ということで、それはなんとしても避けなければいけなかった。どうやって避けるかを模索した13日間の米国の様子をつづったのが本書だ。


 内容自体はそれほど深いものではない。執筆当時はまだ書けなかったこともあるのかもしれないが、13日間の出来事を文庫本100ページでまとめてあることからも内容の記述が非常に簡潔なものであることは想像できると思う。
 また、事件の全容を知る為に読むにしても、あくまで個人の回想録なので視野はどうしても狭く、また(当然のことだが)アメリカからのみの視点での記述になってしまっているので、どうしてもバランスは悪くなってしまう。例えば、ソ連の対応に関しては当時のアメリカがその時点で知り得た情報くらいしか書かれていないので、そういった部分は他の本で捕捉せざるを得ないだろう。


 とはいえ、人類史において最大ともいえる危機をどのように乗り切ったかを、当時の政府内にいた人物が――それも大統領の実弟が――書いたということの意義は大きいと思うし、キューバ危機に興味を持った人は是非読んでおきたい一冊だと思う。


 巻末の解説は桝添先生がされていたのだけど、「日本ではすぐに軍国主義と結びつけられてしまうため、危機管理についての話も出来ない」といった感じの言葉があって確かにそうだなぁ、と思った。民主党の前代表は危機管理の専門家という話だったが、例の事件でのお粗末ぶりを見ると、日本の危機管理能力は危ういなぁといった感じを受けてしまう。
 そもそも、国や国民をいかに危機から守るかというのは国家や政府の第一の仕事ともいうべきものじゃないのか、という気もするけれど、上のエントリのような現状を見ると、なかなか難しいみたいだなぁ、と思ってしまう。