出発前

 とりあえず床屋に行こう、と思ったけれどただそれだけのために外出するのは癪である。プラスαで大学に行き、試験の座席表と集中講義、後期履修登録の日程を確認に行くことにする。お昼真っ盛りに行くと溶ける危険があるので、夕方になってから出発することにする。
 さて、そうなれば髭を剃らないといささか拙い。床屋に行く前に髭を剃るとは何事、と思われる向きもあるかもしれないが、ぶっちゃけ床屋のあの剃刀で剃るよりは、僕が丁字剃刀で剃った方が上手いし、安全だろう。と、、いうことで洗面所に立ったのだが、そのことから悲劇は始まった。

 もとより弱めの肌、それがテスト近くの不摂生で更に荒れていたため剃りにくい、特に唇のすぐ脇の微妙なラインが剃れない。よし、と気合いを入れたのが拙かったのか、やってしまったのである。ざっくりと。痛いけれど、それよりも出血に焦る。ティッシュで抑えても抑えても止まらないのだ。まぁ、たいした量でもないし、貧血持ちでもないからアレなのだが、血が止まらないというのは生理的に気分が悪い。
 しかも、ティッシュを持った左手を頬に当てて、強く押すことで止血しようとしているわけだから、他に何もしようがない。手が小さい方なので片手で本を読むのも難しい。手持ちぶさただったので、仕方なく将棋を指す。勝つ。勝った後で見てみると、やっと血が止まっていた。時計を見ると5時半すぎ。なんと30分以上、止血に費やしていたことになる。危ない危ない、早く出ねば。慌ててシャツを見繕うと……アイロンの掛かったシャツが一つもない。

 ここからアイロンがけがスタート。悠長なもので、たまっていたシャツをすべて片付けてしまう。出発したときには、時計の針は6時を少し回っていた。