敗者復活ならず……

 私の所属している大学の法学部には「昼間主コース」と「夜間主コース」とがあって、前者は文字通り日中に、後者は文字通り夕方から夜にかけて授業があるわけですが、授業の中には両方のコースで開講されているものもあります。「民法B」だとか、「法社会学概論」だとかがこれに当たるわけですが、これらの授業は基本的に同じ教員が担当していて、同じ授業を展開します。
 つまり、仮に昼間主コースの授業を欠席してしまっても、こちらの方の授業に出れば同じ内容の講義を受けることが出来るわけです。もちろん、夜に授業があるとか、週2限の授業を1日でやるため、自動的に2時間続けて受けることになるとか、デメリットもあるのですが、人が少ないため、より落ち着いた環境で授業を受けることが出来るというメリットもあります。
 私がとっている講義の場合は、月曜と水曜に行われるのと同じ講義が金曜日の夜に行われるので、私は何となくこの金曜日の授業を「敗者復活戦」みたいな感じに思っていました。

 さて、今週の講義ですが、私は昼間主コースの方の授業を睡眠不足から来る体調不良で欠席していました。でも、欠席しても大丈夫、私には「敗者復活戦」があるのですから。
 夕方の比較的空いたバスに乗り、大学へ向かいます。校舎から出てくる沢山の人影、みんなはもう帰るのでしょう。ですが、私はこれから授業を受けるのです。そう思うと、何でしょう、ちょっとドキドキしてきました。皆とは違うことをする、それが日常から非日常への脱却のような、そんな感じに思われたからです。
 私は階段を上ります。法学部の学舎は長い長い階段の上にあります。額に汗がにじみます。それを拭きながら歩いて、ようやく階段を上り終えると、私は時計をみます。授業まではあと、10分。余裕です。
 教室の前についた、私はドアを開こうと、ノブに手を伸ばします。しかし、そこで、私は、気づいたのです。気づいてしまったのです。一枚の張り紙に。

「本日(5月13日)の(夜間主コース)1限、2限の法社会学概論はK教授が体調不良のため、休講とします」

 ――来週は、よろしくお願いします。K先生……