工学部と資格について

 オズさんからリアクションを頂いたので、もう少し書き足しておこうと思う。


 オズさんは「工学部生が学ぶ内容は多岐にわたり、一律の資格を設けるのは困難だ。だから、工学部に資格は必要ない。また、そうである以上、(技術者としての)就職の際に資格のあるなしで採否を判断するのは不可能だから、自分も資格が無くても構わない」と大まかにまとめるとこういったことを述べておられるのだと思う。


 僕も上記のオズさんの意見にはほぼ同意である。特に「資格はルーティンワークと直結」というのは卓見だなと思っている。が、それでも何かしらの資格というか、ライセンスを付与するのには意味があると思う。と、いうのはそれが受験生の工学部受験へのインセンティブを高めるのではないかと思うからだ。
 受験生の工学部離れに関しては先日もちょろっと書いたが、探してみたところ具体的なデータを河合塾が出していたので、こちらを見ていただきたい。およそ13年間で志望者数が4割減となっている。少子化の影響という見方もあるだろうが、他の理系学部の志望者数の推移を見れば必ずしもそこに帰結する問題ではないことは一目瞭然だ。


 何故、工学部志望者が減少しているかについてはインタビューにもあったが、「何をやっているのかが分かりにくいこと」、「就職後の仕事内容が分かりづらいこと」などがあるのではないかと思う。そして、これは工学部に資格が無い理由と一致する。「研究内容が多岐にわたる。だから、何をやってるかが分かりにくい」。「ルーティンワークの指標となる”資格”がない。だから、就職後何をするのか分からない」、といったように。


 もちろん、一度工学部に入ってしまったらそんなことが無いように大学や教授がサポートしてくれるのだろうけど、受験生としたらそんな「〜だろう」に人生はかけられないぜ*1といった感じだろう。そうでなくても、将来の仕事が想像できないというのは大きな不安要素になりうる。況や*2就職氷河期においてをや、である。
 かくして受験生は資格の取りやすい=仕事の想像しやすい医療・福祉系学部へと流れ、工学部の志望者数は年々減っていくのであった。


 別に減っても良いんじゃない? という意見もあろうかと思うが、僕はそうは思わない。確かに福祉や介護はこれから必要となっていく分野かもしれない。しかし、現在の日本を支えているのは世界有数の技術力であり、資源・国土に乏しいこの国では、これからもそこに頼るしかないように思われるからだ。工学部志望者が減るということはそれだけ技術者の数が減ることであり、それは技術力の先細りに直結しかねない。現に一部の中小企業では既に各技術分野での技術者不足が始まっているというデータもある。いずれ訪れるといわれる大学全入時代だが、志望者数がこの推移を続けると、最初に切り捨てられるのは研究費に多大な資金が必要とされる私学の工学部からかもしれない。大学の研究機関としての側面を考えると、それは日本という国の技術力向上に歯止めをかけるものとなるだろう。


 じゃあ、資格をつくったら状況は改善するのか、そもそもどうやって作るのか、と問われるかもしれないが、前者に関しては分からないとしかいいようがない。だが、上に記したような技術者不足の現状をもっとアピールし、トヨタソニーパナソニックといった大企業がそういった資格の創設や広報に協力すれば、それは受験生の関心を惹くことが出来ると思う。
 どうやって作るのか、であるが、これに関しては日本技術者教育認定機構(JABEE)が「国際的に通用するエンジニアの教育プログラムの認定」といった方法で、動き出している。さして、知名度がないのが現状での難点だろうが、こういった情報を工業高校だけでなく、普通高校などにも流していけたら状況は幾分か改善するのではないかと思う。


 しかし、それらだけでは問題は改善しないだろう。問題は「資格があるかないか」ではなく、将来に対するビジョンを受験生に見せることが出来るか、4年か6年か経った後、社会で働く受験生本人の姿を想像させることが出来るかなのだから。そういった意味では、これからの大学全入時代を生き残るために必要なのは、受験生の立場に立った自学部のプレゼンテーション能力なのかもしれない。先のエントリで述べたような、ゆで卵の高速回転が同役にたつのか、あるいはどのような技術の基礎となりうるのか、そういったことを「分かりやすく」伝えていくことが必要になるのだろう。


 と、いうことで各大学の工学部教授の皆々様は日本の将来のためにも、研究室にこもることなく高校や高専などで自分の学部、あるいは研究内容の楽しさ、面白さ、有益さをアピールしてもらいたいと思う。くれぐれも「分かりやすい言葉」で。

*1:大げさすぎ

*2:つい先日までささやかれていた