ハセガワケイスケ 『しにがみのバラッド。』


しにがみのバラッド。 (電撃文庫)

しにがみのバラッド。 (電撃文庫)

『ヒカリのキセキ』、『きみのこえ』、『傷跡の花』、『あの日、空を見てた女の子。』の四編からなる短編集。


 「しにがみ」を魂を狩る忌まわしいものとしてでなく、魂を天へと運ぶ使者とっしたり、「しにがみ」になるのは生前、自ら命を絶ったもの達で、その罪の代償として大なり小なり「痛み」を伴う魂を運ぶ――「死」の現場で「死」を見守る――といった仕事に従事させられている、という設定はなかなか面白いと思ったし、登場人物が生き生きしており、作品自体もよく描けていると思う。
 人物の心理描写に関してはいささか甘いなぁと思う部分もあったし、話の筋自体も単純で、どこかで読んだような話が多かったりしたのだけど、その辺りは「ライトノベル」だから良いのだろうと思う。これ以上「深く」描くことも、これ以上話を複雑化することも読者・作者共に望んでいないだろう。
 そういった意味では非常にサクッと読めるライトノベルらしいライトノベルで、ちょっと文庫の小説でも読んでみるかというローティーンくらいの子達にはちょうど良いのかもしれない。改行も多いからすらすら読めると思う。逆に言えば多少、読書経験がある人だと軽すぎて不満を覚えてしまうかも。以下、各編にコメント。


『ヒカリのキセキ』
 シリーズ第一作ということでヒロインやその仕事の紹介がされている。その為かは分からないが、話自体は「よくあるような親子の葛藤もの」の一語でくくれるものになってしまっている。主人公の設定から終わり方まで「よくある」ものだったのには逆に驚いた。王道といえば王道なのだけど……


『きみのこえ』
 四編の中では白眉か。自分が似たような作品を描いてただけにどんなものかなぁと思っていたけど、なかなかよく描けていたと思う。特に主人公の少女と少年を非常に微笑ましく描いている部分は、上手いなぁと感心した。


『傷跡の花』
 トイロ可愛いよトイロ。まぁ、それは別にしても、主人公の女の子、男の子共に非常に魅力的に描かれていると思う。話自体はよくあるといえばよくあるのだろうけど、それにけちをつける気にならないのは話の筋でなく、キャラクターで読ませるたぐいの作品だからであろう。
 ただ、この作品は多少欠点も目について、ラストあたりのトイロの家でのシーンの描写はちょっとどうかなと思うものだったし*1、(以下、ネタバレのため伏字)モモとダニエルの会話は――植物状態の人間になるはずだった人物や暗い人生を送るはずだった人物を助けたりすることが「局長に叱られる」程度のことでしかないということは――いささか人の一生を、ひいては命を軽く扱いすぎているように思えてしまう。
 人が命を落とすことによって生まれる哀しみ、残された人が受けた傷とその再生がこのシリーズの主眼とするところだろうから、下手したらこれは致命傷になるのではないかとも思うのだが……

『あの日、空を見てた女の子。』
 前半のモモやダニエルの様子から、どれだけ意外な結末が待っているのかと思ったら意外にあっさりしていてこれまた逆に驚いた。話自体は悪いものではないし、締めの部分に当たるダニエルとモモの会話も悪くないのだけど、某人の最期の言葉があまりにもリアリティがないというか、芝居がかったものだったのでどうかなと思ってしまった。「恥ずかしい台詞禁止!!」って怒られちゃうよ。

*1:牧歌的なシーンの描写の方が得意な作者のようだから、逆にあのようなシーンは苦手だったのだろう